M&Aにおける営業譲渡人の責任とは…
今回お届けするのは、M&Aの営業譲渡に関する相談です。
このブログを読んでくださる依頼者の中には、事業拡大に向けてM&Aをお考えになっている経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな皆様にお役にたてるコンテンツになっておりますので、ぜひご一読頂けますと幸いです。
今回は、「営業譲渡人の責任」というテーマでお届けさせていただきます。
ー 今回のご相談内容 ー
私が、商品を卸していた会社(A社)に代金を受け取りに行ったら、「当社は、B社に営業譲渡した。B社に請求して欲しい。」と言われました。
私の知らない間にそんなことができるのでしょうか。
「教えて!高島先生!」
当事務所代表弁護士高島秀行がお答えします。
上場企業だけでなく、中小企業においても、いわゆるM&A(企業買収)が増えています。
その一環として、営業譲渡がなされることがあります。
M&Aの手法でよく利用される合併では、新会社は、法律的には、現在の取引先の会社と同一の存在なので、これまでの取引は、そのまま新会社で継続されます。
これに対し、営業譲渡では、営業が新会社に移転するのは、合併などと同じなのですが、全ての取引などが取引相手の承諾なしに移転するわけではありません。
営業譲渡の営業には、工場や店舗などの不動産、取引先への売掛金、仕入先への買掛金、従業員との雇用契約などが含まれます。これらのうち、不動産は、所有権移転登記をすれば、A社とB社間の合意で移転することができます。
取引先への売掛金も、A社とB社間の合意で、B社に移転することができます。
ただし、売掛金を譲渡したという確定日付ある通知を取引先に送付する必要があります。
これに対し、従業員の雇用関係は、従業員の承諾を得なければ従業員がB社に移転することはありません。
また、仕入先への買掛金は、仕入先の承諾を得なければ、B社に支払義務が移転することはありません。
これらについては、A社とB社との間で、従業員や買掛金をB社に移転するという合意を交わしていたとしても、従業員や仕入先の承諾を得なければ、同じです。
不動産や売掛金は権利ですが、買掛金や従業員との雇用契約は、権利でなく、義務です。
売掛金などの権利が移転しても、売掛先はA社であれ、B社であれ、いずれにせよ支払わなければならないので余り影響はありません。
これに対し、買掛金などの義務を勝手に移転できるとすると、A社の資産状況を信用して掛売りしていたのに、支払能力のないB社に支払義務を移転して、支払義務を免れることが可能となってしまいます。
したがって、仕入先にとっては、A社が支払義務を負うのか、B社が支払義務を負うのかは重要になってきます。
そこで、法律上は、買掛金などの支払義務は、仕入先などの承諾がない限り、移転しないこととなっています。
したがって、あなたのケースでも、A社が営業譲渡したからといって、法律上、A社が支払義務を免れるということはありません。
ただ、A社とB社との営業譲渡契約に、営業譲渡後は買掛金はB社が支払うと記載されていれば、あなたの会社は、A社にもB社にも両方請求できることとなります。
A社が営業譲渡してしまったときには、A社に支払能力がないことも多く、B社に請求できた方が得する場合も多いですから、営業譲渡の契約書を見せてもらってみてはいかがでしょうか。
高島法律事務所では、企業買収の分野において多数の解決事例をもっています。
企業買収は、経営者のみなさんにとって大きな決断です。必ず失敗しないためにも慎重な判断が求められます。
まずは、「相談」という形で、第一歩を踏み出し、企業買収に向けたお手伝いをさせてください。経営者である依頼者が、損をしない納得できる結果を得るためにも共に邁進いたします。